藤山哲人のモバイルバッテリー診断

連載「モバイルバッテリー診断」の性能チェック方法

「モバイルバッテリー診断」は、スマートフォンの外部電源として普及しているモバイルバッテリーをレビューするコーナーです。(編集部)

 ここでは連載「モバイルバッテリー診断」で登場する、モバイルバッテリー用の実験環境を説明する。とくに断り書きのない場合、当連載はここで紹介している装置および条件で実験した結果となる。

 各記事中に説明を入れてしまうと、各バッテリーのデータが読みづらくなるだけでなく、記事が長くなってしまうため、ここで紹介させていただくこととした。

「実容量」と「表示容量」について

 モバイルバッテリーのパッケージには、必ず「○○○mAh」という表示がある。これはそのモバイルバッテリーが、どれだけ電力を蓄えられ、スマートフォンをどのぐらい充電できるかの目安となる。本記事ではこのパッケージに記載された容量を「表示容量」と呼ぶ。

パッケージやモバイルバッテリー本体に必ず表示されている「mAh」という値に注目。どのぐらい充電できるかの目安となる

 表示容量だが、この値をスマートフォンの内蔵バッテリー容量で割っても充電できる回数にはならない。なぜならモバイルバッテリー内部やスマートフォンの充電回路で、必ずロスが発生するためだ。

 そのため本記事では、実際にスマートフォンを充電できる容量を「実容量」と表記する。この実容量は、モバイルバッテリー内部でロスする容量に加え、一般的なスマートフォンで充電時にロスする容量を差し引いた値となる。

 記事中には【実用量と各種スマートフォンの充電回数予測】という表に、スマートフォンのバッテリー容量ごとに何回程度充電できるかを示している。もし表中に自分の持っているスマートフォンのバッテリー容量が見当たらない場合は、「実容量÷スマートフォンのバッテリー容量」で、おおよその充電回数を計算可能だ。

 また、モバイルバッテリーの各製品によってロスの度合いが異なるため、表示容量を100%として、実容量がどのぐらいあるかを「実容量率」、表示容量からどれくらいロスしたかを「ロス率」と呼ぶ。この実容量率も実容量と同じで、モバイルバッテリー内とスマートフォンの充電時のロスを差し引いたものだ。

 たいていの製品は、実容量率が60~70%(ロス率が40~30%)程度となる場合が多い。例えば表示容量が3,000mAhの場合は、実容量はおよそ1,800mAh~2,100mAhと推測できる。

 このように実容量と実容量率は、スマートフォンの充電ロスも含まれる点に注意して欲しい。モバイルバッテリー単体としては、およそ1.2~1.3倍程度の実容量を持つと思っていただきたい。

 また実容量率は小数点以下を四捨五入しているため、表示容量×実容量率≒実容量となる。つまり表示容量×実容量を計算しても、ピッタリ記事中の数値にならず、非常に近い値となる点もあらかじめご了承いただきたい。

 モバイルバッテリーからすると低すぎる実容量(率)だが、ユーザーから見ると、スマートフォンの充電時のロスはモバイルバッテリーのロスに見えるという点と、「実容量÷スマートフォンのバッテリー容量」で大まかな充電回数を把握できるようにするため、このような定義となっている。

充電実験に使用するスマートフォンについて

2012年夏モデルの富士通「ARROWS X F-10D(docomo)」。内蔵バッテリー容量は1,800mAhとなっている

 利用しているスマートフォンは、2012年夏モデルの富士通「ARROWS X F-10D(docomo)」。高速通信のLTE端末なので、バッテリー容量は1,800mAhと、比較的大きい。

 バッテリー充電時は、本体のMicro USBコネクタに、モバイルバッテリーを差し込んで充電する。バッテリー残量およそ10%程度~95%程度まで充電している。

 電池がどのくらいまで充電できるのかは、スマートフォンの電池残量のパーセンテージを基準としている。0%から100%まで充電した場合は「1回充電できた」となるが、残量10%から95%まで充電できた場合は「85%充電できた」ということになる。

 例えば「85%が2回充電できて、さらに40%も充電できた」場合は、「85+85+40」で、210%充電できるものみなし、充電回数を「2回と10%」のように表記する。充電回数に併記している、モバイルバッテリーの実容量は、この回数に内蔵バッテリーの容量(1,800mAh)を掛けた値とし、「○○○mAh相当」と表記している。

実験ではすべて、スマートフォンの電源を入れた状態(待ち受け)で充電している

 なお充電時のスマートフォンの状態は、電源をONにしたままの(待ち受け)状態で、WiFi:ON、Bluetooth:ON、GPS:ON、省電力モード:OFF、画面が消えた状態にしている。メーカー公表値は、スマートフォンの電源をOFFにした状態で計測している場合もあるため、本実験の結果は、それに比べると少ない場合がある。

バッテリー残量を数値やグラフで表示するアプリ「Battery Mix」。このアプリでバッテリーの変化を記録している

 また内蔵バッテリーの充電状態を記録するために、Battery Mixというアプリをインストールしている。スマートフォンが待ち受け状態でも、定期的に何%充電できているかを調べ、スマートフォンのSDカードに記録させている。また充電中にバッテリー残量が90~95%になった時点で、アラームを鳴らすように設定してあり、これを元に1回の充電としている。充電中にはディスプレイを表示させておらず、標準以外でインストールしているアプリは、BatteryMixのみとしている。

 モバイルバッテリーとスマートフォンの間を接続するUSBケーブルは、スマートフォンに同梱のものではなく、モバイルバッテリーに付属しているケーブルを用いる。ケーブルが同梱されていない場合は、長さ30cm程度の市販のUSBケーブルを用いている。

 スマートフォンのバッテリーがフル充電になると、モバイルバッテリーの電源が自動的に切れるオートパワーオフ機能は、下の写真のような装置で確認している。

モバイルバッテリーのUSBコネクタに、40mAのわずかな電流を流す装置を差し込み、スマートフォンがフル充電になった状態を擬似的に再現している。これで5分以内に電源か切れれば、「満充電終了後のモバイルバッテリーのオートパワーオフは有効」としている

 この装置はごくわずかな40mAの電流を流すもので、スマートフォンがフル充電になった状態を擬似的に再現できるものだ。これをモバイルバッテリーに差し込み、モバイルバッテリーの電源を入れて5分以内に電源が切れた場合は、「スマートフォンの電源をONにした状態でもオートパワーオフ有効」としている。

 またこの装置を接続していない状態でモバイルバッテリーの電源を入れ、5分以内に電源が切れた場合は「スマートフォンの電源をOFFにした状態のみオートパワーオフ有効」としている。それでも電源が切れないものは、オートパワーオフ「なし」とした。

 なお、このスマートフォンがフル充電になる状態を再現する「40mAの電流」とは、筆者宅にあった数台のスマートフォンを調べた平均値が40mAだったことから採用している。製品によっては40mA以上の電流が流れオートパワーオフが効かないもの、40mAも流れずスマートフォンの電源でONの状態でもオートパワーオフが有効な場合もある。この点はどうかご理解いただきたい。

スマートフォン内蔵の電池を消費させる手段について

 スマートフォンの充電実験をするためには、既に充電されている内蔵電池を消費し、カラにする必要がある。動画を長時間再生させたり録画するなどして、手動でバッテリー容量を消費する方法もあるが、これだとバッテリーの負荷のかかり方にバラつきが生じてしまう(動きの激しい負荷のかかる動画もあれば、負荷の少ない静止画風の動画もあるため)。

 そこで本実験では、独自のバッテリー消費システムを製作している。ムービーを連続で撮り続けている場合を想定し、常に1Aの電流を流す。そして、システムを制御するコンピュータで内蔵バッテリーの電圧を監視し、バッテリー残量10%に相当する電圧になると、自動的にスイッチを切るようにしている。

スマートフォンのバッテリーを一定の電力で消費し、残量10%相当の電圧になると自動的に停止する装置(の一部)
スマートフォンのバッテリーを取り出し装置にセットして、独自のプログラムを実行する
システム全体はこのようになる。写真に写っていないが、別途パソコンも使っている
バッテリーの状態を逐次監視。残量10%相当の電圧になると、LEDがたくさん並んだ制御ボックスで電源を切っている

 ただし、バッテリーはすこし休ませておくと回復し、残量が数%増える場合もあるため、充電開始時のバッテリー残量は「おおよそ」10%としている。残量が15%以上まで回復してしまった場合は、再び10%まで残量を減らしている。

モバイルバッテリーの出力、スマホが何回・何%充電できるかの目安について

 モバイルバッテリーの出力については、ほぼ1Aの電流が流れるような独自の回路を使って、どれだけの電力が出せるかを測定している。約1Aとしたのは、たいていのスマートフォンは、約1Aで内蔵バッテリーを充電する急速充電モードを備えているからだ。

 モバイルバッテリーの中には2A出力できるものもあるが、基本的には1Aに統一している。なお、最大出力電流が500mAの場合は、ほぼ500mAが流れるように設定して実験している。

このような装置を用意して、モバイルバッテリーに一定の電流を流すようにしている。言わばスマートフォンを操作して電池を減らす「負荷シミュレーター」だ
電流と電圧を測定する中継器。右のUSBコネクタをモバイルバッテリーに、左のUSBコネクタからはスマートフォンや左の装置をつなげて、電流と電圧を測定する

 測定回路は、実験ごとに電線の長さなどが変わらないよう、常に同じ電線で測定し、極力誤差を少なくするようにしている。モバイルバッテリーの出力に接続する測定器のコネクタはUSB(USB A)。出力ケーブルが本体に直結している場合など、モバイルバッテリーによってはUSBコネクタがない場合もあるが、この場合は変換コネクタを噛ませて接続する。また測定器とスマートフォンの間のケーブルは、モバイルバッテリーに付属のケーブルを利用している。

測定回路に接続しているところ。実際にはパソコンに接続し、1分ごとの電流を測定する
ペンタイプの電圧測定器も使用する。こちらも1分ごとに電流と同時に電圧を測定している
電圧計と電流計で記録したデータは、表計算ソフトに読み込んで整理、グラフ化している

 モバイルバッテリーがスマートフォンなど各種モバイル機器を何回充電できるかの回数は、実際に実機を充電しているわけではなく、あくまで測定結果から算出した理論値となっている。すべての機器を実験していると、あまりに時間と手間が掛かり過ぎるのが一番の理由だ。この点はあらかじめご理解いただきたい。

モバイルバッテリー自体の充電方法について

 モバイルバッテリーに内蔵されている電池の充電には、専用の充電器・ケーブルが同梱されている場合は、それを使っている。充電器が同梱されていない場合は、充電にバッファローの「2A対応USB充電器2ポート BSIPA08BK」を、ケーブルもない場合は市販のものを利用している。

 充電時間は、3回充電した場合の平均値を採用。1分おきにビデオカメラで撮影し、充電ランプの状態を確認した時間となっている。製品によっては、充電が100%になると充電ランプが消えず、点灯しっぱなしのものがあるが、その場合はスマートフォンの充電サインが消えた瞬間、もしくはモバイルバッテリーの充電完了ランプが点灯した瞬間を以って充電完了時刻としている。

充電器が同梱されていないモバイルバッテリーは、最大2Aの出力ができるバッファロー製のUSB-ACアダプタを利用している

モバイルバッテリーの活性化とリフレッシュ充電について

実験開始前には、必ずリフレッシュ充電の放電を行なっている

 本記事でテストしているモバイルバッテリーは、とくに記載のない限り未開封の新品を利用している。これは充電式のバッテリーは繰り返し利用すると、劣化して実容量が減ってしまうためだ。

 しかし開封直後のモバイルバッテリーは、電池が眠った状態で最高のパフォーマンスを発揮できない。そこで本記事では、開封直後のバッテリーを活性化させるためリフレッシュ充電を最低3回行なっている。

 手順は、工場出荷時に充電された電池を使いきり、一度フル充電する。その後充放電を最低3回繰り返すことで、電池が寝ている状態を活性化させている。

■■連載を通じた注意■■

・実験結果は、室温がコントロールされていない環境で行なっています。電池は温度により、その特性が大きく変わる点にご注意ください。
・実験結果は記事作成に使用した個体に関してのものであり、すべての製品について共通であるとは限りません。
・実験結果に基づいた実容量やロス率は、その値を保障するものではありません。
・筆者および家電Watch編集部では、この記事についての個別のご質問・お問い合わせにはお答えできません。

藤山 哲人